IHIものづくり館 i-Museを訪ねる

― IHIの造船から航空機、宇宙機器への技術挑戦

I-Museとは

IHI- outlook x02.JPG 東京・豊洲のIHI本社内に設けられたIHIの「ものづくり館」“i-Muse”を訪ねてみIHI- exterior x01.JPGた。IHI(旧石川島播磨重工業)は日本を代表する長い歴史を持つ総合重工業企業の一つとして知られている。現在、同社は、三菱重工や日立、東芝などと並んで日本の造船、重機械開発、社会・産業インフラ、航空・宇宙産業などの分野で大きなシェアを占める。このIHIが創立150年を記念して、2006年、「IHIものづくり館 i-Muse」を設立しIHI- Illust x08.JPGた。ここでは、1876年、明治期の「石川島平野造船」から始まって、1960年には播磨造船と合併して石川島播磨重工(IHI)となり、タンカーからLNG船、ジェットエンジン開発、橋梁から産業インフラへと事業活動をひろげた開発技術の歴史を丁寧に展示している。これは、同時に、日本の重工業発展の歩みと現在の挑戦の姿を示していると思われた。日本の産業技術の進展を見る上でも貴重な資料館であった。これは訪問したときの印象を記した訪問記録である。

♦  i-Muse HP: http://ihi.co.jp/imuse
♦ Visit the “i-Muse” report (English) : https://igsforum.com/2017/04/29/visit-the-i-muse-ihis-technology-museum/

 ♣ IHI(石川島播磨重工)の歴史

IHI- Hirano x01.JPG  IHIの前身は、1853年に江戸幕府によって作られた「石川島造船」であった。明IHI- Old shipyard x01.JPG治以降、海軍の所管となったが、1876年、創業者である平野富二が払い下げを受け、民営「平野造船所」となったものを基礎に、1889年に有限会社「石川島造船所」を設立した。その後、造船だけでなく、発電設備、鉄道機関車、自動車部門などでも事業開発にも参入して現在につながる事業体としての基を築いた。

IHI- History x01.JPG1945年の戦後以降は、さらに技術開発企業として業域を拡げ、航空機エンジン、大型船舶、タンカー、橋梁など社会インフラ事業で国際的にも知られる企業となっていく。そして、1960年には、広島の「播磨造船」と合併し「石川島播磨重工業」となり、2007年に社名をIHIとして現在に至っている。IHI- Illust x04.JPG

このような経過をふまえ、同企業が、どのような技術開発を行ってきたのか、どのような分野で事業を展開してきたのかを、製品群や技術の背景を含めて総合的に紹介しているのが、このIHIものづくり館 I-Museである。日本の重工業発展、エンジニアリング産業の技術開発の歴史を知る上でも貴重な「博物館」であると思われる。

  ♣ 「ものづくり館」の展示内容

IHI- outlook x04.JPG 豊洲にあるIHI本社一階の広いロビーの一角にこの「IHIものづくり館 i-Muse」は設置されている。外面がガラス仕様となって外からも内部が見える開放的な博物館である。館内は幾つかのコーナーに分かれていて、IHIの歴史と沿革を示すコーナー、取り組んできた事業やプロジェクト、製作された工業機械、船舶、構造物などが、ほぼ10年ごとの時系列で展示されている。古くは、明治期に作られた船舶、機関車や橋梁があり、昭和年代では、四国大橋、LNG船、あたらしくは宇宙開発関連機器など、日本の産業・社会インフラ、エネルギー環境関係のプロジェクトが数多く解説付きで展示されていて、改めて日本の重工業産業発展の大きな流れを確認できる。

それぞれのコーナーに展示された製品群をみてみよう

   ♣ IHI企業史のコーナー

IHI- Illust x09.JPG まず、館内エントランスホールにはいるとすぐ目につくのは、1959年に作られた実物大の国IHI- Jet x01.JPG産「ジェットエンジンJ3」であった。これはIHIが、現在、この宇宙・航空分野の技術開発に本格的に取り組んでいることを示すものだという。

IHI- Company chart x01.JPGまた「企業史のコーナー」に進むと、IHIの発展を写真資料と詳しい年表が展示してある。先に触れたように明治初年、平野富二が「石川島造船」を買い取り「石川島平野造船所」事業をIHI- Company his x01.JPG始めた頃の歴史やその後のIHI事業拡大の経過を年表風に示してある。1960年にIHIと合併した「播磨造船」(1907年創立)の沿革も同時に展示されてあった。これにより、IHIが設立以来、積極的に飛行機製造や自動車産業など新しい分野へ事業展開していった様子が確認できる。正面には創業時の「平野造船所」の精巧に出来たミニチュア模型が展示してあり、当時の造船所の姿を彷彿とさせている。

  ♣ 「ヒストリー1」1853年~1945年のコーナーの展示

IHI- Illust x07.JPG  このコーナーでは明治期からIHIが取り組んで開発した一連の製品群が写真、記録、模型なIHI- Tokyo station x03.JPGどを紹介している。これにより明治期、IHIが造船業からはじめて、多角的な重化学工業分野に進出して事業の基礎を固めていった様子が展示で確認できる。ここには、蒸気船「海運丸」(1877)のほか、軍艦「鳥海」IHI- ship x01.JPG(1888)建造、隅田川の「吾妻橋」架設(1887)、旧国技館の鉄骨組立事業(1909)などの記録写真が治めてあって、技術開発の経過がよくわかる。また、そこには大きな東京駅の構造模型が中央に飾られており、明治期の一大事業であった東京駅舎の建設で、IHIが重要な構造建築の役割を果たしたことを誇示している。また、このコーナーには1906年建造の「大鵬丸」の模型も飾ってあった。

  ♣ 「ヒストリー1」1946年~1968年のコーナーの展示

IHI- Illust x02.JPG この戦後初期の展示では、IHIの代表的事業の一つであった「世界最大級のIHI- Tanker x01.JPGタンカー建造」との経済高度成長に果たしたIHIの役割が主要テーマとなっていた。産業エネルギー源の確保ため造船技術などの面で日本経済に大きな貢献をしたことを示している。展示では、その言葉通り、1966年建造された当時世界一の20万トンタンカー「出光丸」の大型模型が、その構造図面と共に展示してあり訪問者の目を引く。
IHI- crane x07.JPGそのほか、IHIは、航空部門で、YJ3エンジン(1959)、IGTガスタービン(1962)なども開発し、大型球形ガスタンク建造(1956)、黒四水力ダムのプラント機器(1958)などにも成功させている。ここには、技術的成果が写真パネルで年次別に展示してありわかりやすい。また、高度成長を象徴する高層ビル建設(例えば霞が関ビル)に必須な移動式大型クレーン「ジブクライミングクレーン」(1968)の開発モデルが機能模型で展示してあるのは、その後のIHIのインフラ事業の技術的展開の方向を示すものと思えた。

  ♣ 「ヒストリー1」1969年~1989年のコーナーの展示

IHI- Tank x01.JPG この時期の展示テーマは、IHIの海外展開の加速とエネルギー・環境分野への取り組み強化を示すものであった。主要展示としては、液化天然ガスの大きな貯蔵タンク(1969-)とLPGプラント(1984-)の建設である。マイナス162度の超低温を維持しIHI- Rocket x01.JPGて貯蔵するLNGのタンクの模型が正面に飾られていて、内部構造も解説してある。IHIがこの分野で大きな役割を占めたことを示しているだろう。このLNGプラントは国内だけでなく海外でIHI- Bridge x03.JPGも展開されていたことも紹介し、写真で展示している。航空部門では、FJR710飛行試験(1977)のほか液体水素ロケットH-I開発(1986)の模型なども見える。また、海外エンジニアリング事業では、ブラジルの船上パルププラント(1978)、 トルコ「ゴールデンホーン橋」(1974)、ボルボラス大橋(1988)などが紹介されていた。

 ♣ 「ヒストリー1」1990年~1999年のコーナーの展示

IHI- Bridge Illust x01.jpgこの期の展示の特色は、社会インフラへの技術的な挑戦と最先端産業機器開発、IHI- Bridge x01.JPG航空・宇宙分野への本格的な参入を伝えるものとなっている。この象徴的なプロジェクトして展示で紹介されていたのは、「明石海峡大橋」の架設(1994)事業であった。全長3.9kmの巨大吊り橋を海峡をまたいで建築するというもので、強風圧とスパンの長さを克服しての技術的挑戦はIHIの自慢の一つとしている。このため、吊り橋の強度実験や吊り橋梁の模型などが展示されていて興IHI- Nucler x01.JPG味深かった。また、新型LNG船「Polar Eagle」の模型も展示してあった。そのほか、東電柏崎原子力発電所の発電機(1996)、地下トンネルを掘る「シールド・ロボット」(1997)なども見られる。航空・宇宙部門では「V 2500エンジン」開発(1991)、「H-IIロケットターボポンプ」への参入などが紹介されている。

♣ 「ヒストリー1」2000年~以降事業の紹介展示

IHI- Illust x12.JPG このコーナーでは、IHIが現在取り組んでいる開発プロジェクトが紹介されていIHI- Jet x04.JPGる。特に、ジェットエンジンへの取り組みに力を入れていることが展示にも示されている。1971年の国産初の航空ターボエンジン「FJR710」を開発し、以来、現在の航空機、宇宙開発の進展につながるエンジン開IHI- Jet x03.JPG発などを国際共同開発プロジェクトに参画していることが示されている。展示では、2000年開発の「CF34ターボファンエンジン」、ボーイング787型旅客機エンジン共同開発(2004-)などが例として上げられている。また、宇宙ステーション補給機「こうIHI- space x02.JPGのとり」(2009)の開発協力、社会インフラでは、新交通システム「ゆりかもめ」(1996)開発などが例示され、注目をあつめている。

IHI- Illust x11.JPG 特別展示:小宇宙探査機「はやぶさ」

ー 地球「帰還カプセル」と「ミネルバ」開発

IHI- Hayabusa x01.JPG このなかで、IHIが近年の成果の一つとして特別展示しているのが、小惑星いとかわの探査機「はIHI- Minerva x01.JPGやぶさ」の地球帰還(2003)をはたした「回収カプセル」の実物展示であった。カプセルは地球の大気圏突入で非常な高熱に見舞われるが、LNG事業などで培われた断熱技術がこれに生かされていたという。このカプセルの中身を分解してみせる展示は圧巻である。 技術の蓄積が様々な場で生かされていることを実感できる。

♣  見学を終えて

IHI- Logo x01.JPG 僅か1時間ばかりの見学ではあったが、IHIが重工業機械・航空・エンジニアリング事業でIHI- outlook x06.JPG様々な技術開発が行ってきた経過を、時間軸を追って体感できた。IHIは三菱重工業などと並んで重工業分野の第一人者であるが、この発展を通して日本の重工業がどのように技術開発を進め、今日の姿に発展してきたかを展示で実感できる。展II- Ship x01.JPG示の中には、「日本の産業遺産」となった製品・機器も数多く含まれている。明治以降の欧米技術の吸収からはじめてIHIが独自技術の開発、産業社会の要請に応えて発展する技術企業の姿が垣間見られて興味深かった。 この「ものIHI- outlook x05.JPGづくり館」は、IHIという一企業のみの技術開発の歴史を紹介する「企業技術史」的なものではあるが、それだけに一貫性をもち物語性に富んでいる。また、時代の要求に応える形で企業が技術的挑戦に取り組んできたことをテーマ別iHI- Ishikawa Arch x02.JPGに紹介するという形をとった展示となっている点が魅力的ある。日本の産業技術発展を見る上でも貴重であろう。

なお、IHIが「石川島造船」と呼ばれた頃の歴史と地域との関わりを紹介する「石川島資料館」が現在の東京・佃地域に設立されている。当時のIHIの工場の様子や地域経済の模様を知るには最適である。「IHIものづくり館」と共に訪ねてみる価値があると思われる。

(了)


Reference:

「IHIものづくり館アイミューズ(I-Muse)」 案内パンフレット

  • 「IHI Corporate Profile 2017」
  • 「技術の世界i-Muse」 (booklet)
  • 「石川島からIHI」(石川島資料館)
  • ビジュアル版 日本の技術100年 (3) 造船・鉄道